「天日干し」と「棚田米」、なぜ値段が高くても売れるのか? ちょっと気になるお米の選び方の話

ネットでお米を探していると、「天日干し」「棚田米」という言葉が目に入ることがあります。

同じコシヒカリでも、「天日干し」と書いてあるだけで500円、1,000円高い。「棚田で育てました」と書いてあるお米も、同じ産地の普通のお米よりちょっとお高め。正直なところ「そんなに違うの?」と思いますよね。

でも、これらのお米には値段が高くなる理由がちゃんとあります。そしてその理由を知ると、ふだんのお米選びの見え方が少し変わるかもしれません。

まず、天日干しのお米って何が違うの?

稲刈りのあと、お米をどうやって乾燥させるか。実はここに大きな分かれ道があります。

現在、日本で収穫されるお米のほとんどは「機械乾燥」です。コンバインで刈り取った籾(もみ)を、その日のうちに乾燥機に入れて、温風で数時間から一晩で水分を飛ばす。効率がよく、天候にも左右されません。大量のお米を安定して出荷するには、この方法が欠かせません。

一方、天日干しは、刈り取った稲を束ねて屋外に掛け、太陽と風の力だけで2〜3週間かけてゆっくり乾燥させる方法です。「はさ掛け」「稲架掛け」とも呼ばれます。秋の田んぼに稲が並んでいる風景を見たことがある方もいるかもしれません。

この2つ、仕上がりにどんな差が出るのか。

機械乾燥は40〜50℃の温風を当てて短時間で仕上げます。速いぶん、米粒の表面と内部で乾燥ムラが生じることがあり、割れ米(ひび割れた米粒)が出やすくなります。乾燥の温度が高すぎると、お米のデンプンの質が変わり、食味が落ちるとも言われています。

天日干しは、日中の日差しで少し乾き、夜の湿気で少し戻る。このゆるやかな繰り返しの中で、米粒全体が均一に乾いていきます。急激な温度変化がないぶん割れ米が少なく、デンプンへのダメージも小さい。さらに、稲を穂がついたまま干すため、茎や葉に残った養分が乾燥中にゆっくり米粒へ移るとも言われています。

炊き上がりの違いとしてよく挙げられるのは、「甘みが強い」「粒がしっかりしていてツヤがある」「冷めてもおいしい」といったところ。おにぎりやお弁当にすると違いが分かりやすい、という声もあります。

天日干しが高い理由は、味だけじゃない

天日干しのお米が高くなる最大の理由は、手間です。

まず、機械乾燥であれば刈り取りから乾燥完了まで1〜2日ですが、天日干しは2〜3週間かかります。その間、稲は屋外にあるわけですから、突然の雨や台風が来れば対応が必要です。カビが生えないか、鳥に食べられていないか、毎日気を配らなければなりません。

稲を一束ずつ手作業で掛けていく労力も大きい。大型のコンバインで一気に刈り取って乾燥機に放り込む作業とは、かかる時間がまるで違います。

そもそも天日干しをするには、稲を掛ける場所が要ります。田んぼの中に「はさ木」や「稲架」を立てるスペース、あるいは納屋の軒先。大規模な農家ほど、すべてのお米を天日干しにするのは物理的に難しくなります。

結果として、天日干しのお米は生産量が限られます。手間がかかるうえに量が作れない。値段が高くなるのは、そういう構造的な理由があるのです。

では、棚田のお米はどうなのか

棚田は、山の斜面に階段状に作られた田んぼのことです。平地に広がる田んぼとは違い、一枚一枚が小さく、段差をつけながら連なっています。

「棚田米」が特別扱いされるのには、いくつかの理由があります。

まず、水。棚田の水源は多くの場合、山から流れ出る湧き水や沢水です。上流に生活排水が混じることがほとんどないため、きれいな水で育てられます。田んぼに入る水の温度も、平地より低い。稲は夜間に水温が下がると、昼間に作ったデンプンを消費せずに蓄えるため、お米の甘みやうまみにつながると言われています。

次に、気温。棚田がある場所は標高が高いことが多く、平地に比べて昼と夜の気温差(寒暖差)が大きくなります。この寒暖差が、お米の食味を左右する大きな要素のひとつ。果物でも「寒暖差のある産地のものは甘い」と言いますが、お米もまったく同じ原理です。

そして、土。山の斜面には、長い年月をかけて堆積した落ち葉や腐葉土からミネラル豊富な土壌が形成されています。化学肥料に頼らなくても、土そのものに力がある。

つまり、きれいな水、大きな寒暖差、豊かな土壌という、お米がおいしくなる条件が自然にそろっている場所が棚田なのです。

棚田のお米が高いのも、やっぱり手間の話

棚田は、見た目の美しさとは裏腹に、農作業としてはとても大変です。

一枚一枚の田んぼが小さいため、大型の農業機械が入れません。平地なら大型トラクターで一気に耕せるところを、棚田では小型の機械で何度も往復するか、場所によっては手作業になります。田植えも、稲刈りも同じです。

斜面にある以上、水の管理にも手間がかかります。水は高いところから低いところへ流れるので、上の段から順に水を落としていく仕組みが必要です。あぜ(田んぼの縁)が崩れれば水が漏れるし、大雨が降ればなおさら。あぜの補修や草刈りも、斜面での作業はひと苦労です。

結果として、棚田のお米は平地のお米と比べて、同じ面積から収穫できる量が少なく、かかる手間は何倍にもなります。10キロのお米を作るのに必要な労力が、平地とは比べものにならない。これが棚田米の値段に反映されているわけです。

そして、だからこそ棚田を維持できる農家は年々減っています。高齢化が進む中、「この手間をかけてまで続けるか」という判断を迫られている農家さんは少なくありません。棚田米を買うということは、その風景と文化を維持することにもつながっている、と言ったら大げさでしょうか。

「手間がかかっている」は、おいしさの別名かもしれない

天日干しも棚田も、共通しているのは「効率の悪さ」です。

機械で一気に乾燥させたほうが速い。平地の広い田んぼで作ったほうがたくさん穫れる。大量生産・効率重視の方向に進んできた日本の米作りの中で、天日干しや棚田は、あえてその逆を行っています。

でも、その「効率の悪さ」の中に、お米がおいしくなる条件が詰まっている。ゆっくり乾燥させるから米粒が割れない。山の水と寒暖差で育つから甘みが乗る。手間を省かないことが、そのまま品質につながっている。

もちろん、機械乾燥のお米がまずいわけではありません。技術は年々進歩していて、低温でじっくり乾燥させる高性能な乾燥機も増えています。平地の田んぼでも、水管理や土づくりにこだわっておいしいお米を作っている農家さんはたくさんいます。

ただ、「天日干し」「棚田米」というラベルの裏には、そのお米がどうやって作られたかという物語がある。それを知ったうえで食べると、同じ一杯のごはんでも、ちょっと味わいが変わるかもしれません。

農家さんに「なぜこの作り方なのか」を聞いてみる

ネット通販でお米を買うとき、商品名や値段だけを見て選ぶのはもったいないかもしれません。

天日干しにしている農家さんには、「機械ではなく天日を選ぶ理由」があります。棚田で作り続けている農家さんには、「この場所でやめない理由」がある。その背景を知ると、お米選びがただの買い物ではなく、農家さんの仕事への共感になります。

このサイト「農家のお米屋さん」に掲載されている農家さんの中にも、天日干しや棚田で作ったお米を販売している方がいます。農家さんのページには、栽培へのこだわりや想いが書かれていることも多いので、値段の比較だけでなく、「この人のお米を食べてみたいな」という気持ちで選んでみるのもおすすめです。

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